井上靖の行軍日記を発見 中国出征から送還まで半年
天平の甍などで知られる作家井上靖(1907~91年)が37年から38年にかけて中国に出征したときの日記が、都内の遺族宅で見つかった。戦争に直面した作家の率直な心情がうかがえる貴重な資料だ。
日記は、井上が当時勤務していた大阪毎日新聞の社員手帳に鉛筆で書かれていた。召集令状が届いた37年8月25日から、補給担当の特務兵として中国河北省に送られ戦地を行軍、脚気を患い帰国した後の翌年3月7日まで続く。
昨年死去した妻ふみさんが保管していた遺品に残されていた。
「砲撃の跡物凄し、全部落の家屋殆ど全半壊」などの戦場の描写や「神様!一日も早く帰して下さい」といった切実な心境がつづられている。
また「あゝふみよ!伊豆の両親よ、幾世よ!」「この先が危ぶまれ、ふみと幾世のことを思ひ、悲痛な気持になる」と妻や娘への思いを募らせていたことも分かる。
井上は従軍の体験をもとにした作品はほとんど書いていない。
日本大文理学部の曽根博義教授(日本近代文学)は、「率直な心情が書かれており、一人の弱い兵士だった井上氏の姿が浮かび上がってくる。井上文学のルーツをたどる上で貴重な資料」と話している。
日記は11月7日発売の文芸誌新潮12月号に掲載される。【共同・他】参照
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