源氏物語/大沢本を発見 鎌倉中期? 未整理の本文多数
鎌倉時代中期のものとみられる源氏物語の全54帖がそろった写本大沢本の存在が21日、明らかになった。藤原定家らの校訂を経ていない、別本べっぽんと呼ばれる未整理の本文を多く含んでおり、現在読まれている源氏物語より古い姿を残している可能性がある。
大沢本の存在を確認した国文学研究資料館の伊井春樹館長によると、戦前までは奈良県内の大沢家が所蔵していたが、その後約70年間、行方がわからなかった。
大沢家の先祖が豊臣秀吉から拝領したという伝承があり、筆者として西行や寂蓮、後醍醐天皇らの名前も伝わるが、証拠はない。
現在の所蔵者は明らかにされていない。各帖はほぼ縦横16cm。木箱は失われ、段ボール箱で保管されていた。虫食いの跡はなく保存状態もよい。一部の失われた帖を室町時代に補ったとみられる。
別本は28帖にのぼり、ほかの別本とも異なる独特の表現が多く含まれている。たとえば光源氏の息子夕霧について語られる夕霧の巻末に、「なにはの浦に」の6文字が確認された。
伊井さんは平安中期の和歌集古今和歌六帖の歌「おしてるやなにはのうらに焼くしほのからくもわれはおいにけるかな」からの一句ではないかとみている。この引歌ひきうたによって「自分も年をとったなあ」という夕霧の心情を表現した可能性がある。
伊井さんは「重要文化財級の貴重な写本だと思う。大沢本を精査すれば、定家によって表現が洗練される以前の、平安時代の源氏物語に一歩でも近づけるのではないか」という。
江戸時代に版本が普及するまで筆と墨で書き写された。平安時代に書かれた紫式部の自筆本は現存しない。鎌倉時代前期に定家が写した前田本などが最も古い。
国文学者池田亀鑑の分類によると、定家が校訂した青表紙本、同時期に源光行らが校訂した河内本の2系統と、それ以外の雑多な別本がある。
現在読まれている本文はほとんど青表紙本系統の大島本(室町時代)がもとになっている。 【アサヒ・コム】
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